「出資」
前回までは定款の記載内容についてのお話でしたが、今回は定款の作成と公証役場で認証手続が終わった後の出資について考えてみたいと思います。
発起人は、引き受けた株式について、金銭の払込又は金銭以外の財産の給付(現物出資)をしなくてはなりません。(会社法第34条参照)
金銭の払込手続きは会社法施行により大幅に簡素化されています。商法時代の設立は必ず金融機関に出資払込金保管証明書という書類を交付してもらう必要がありました。会社法における株式会社発起設立ではこの証明書は不要となり、発起人の定める銀行、信用金庫、信託会社等の口座(通常は発起人総代の個人口座)に払込の後、その通帳の写しを「払込があったことを証する書面」に添付することで登記申請が受理されます。
この「払込があったことを証する書面」の捺印は発起人ではなく、設立時代表取締役が会社届出印(会社の実印のこと)を捺印することとなっていますので注意が必要です。
なお、前回、全く利用されていないとお伝えした募集設立の場合は、現在でも金融機関の出資払込金保管証明書が設立登記の添付書類として求められます。この証明書の交付手数料に数万円はかかります。これだけでも募集設立は敬遠されるのですが、そもそも金融機関が出資払込金保管証明書を出したがりません。もし、これが設立のための出資金ではなかったら金融機関も責任を負う可能性があります。犯罪収益防止法(通称)などでマネーロンダリングなどの監視が厳しくなっている近年ではよほど古くからの取引実績があり、かつ信用を得ている場合でもない限り金融機関で断られる可能性が大きいのです。
ちなみに、募集設立の場合にだけ金融機関の出資金払込保管証明書が必要となる理由は、発起人以外の設立時募集株式引受人から払込まれた出資金を発起人が勝手に使い込むことを防止するためです。金融機関は会社成立まで出資金を保管しますから、発起設立のように通帳の写しをとった後、出資金を引き出すようなことはできなくなるのです。
現物出資の場合、財産の給付は財産引継書という書類によって証明します。前回お話ししたとおり、現物出資のほとんどは検査役選任手続きを省略しますので、拍子抜けするぐらい簡素な書面です。現物出資の目的のなる財産、その金額、出資者の住所氏名等を明記して捺印するだけです。この財産引継書は、設立時取締役が作成する調査報告書の一部として合綴され設立登記の添付書類として提出します。
現物出資した財産の会社成立時の価額が、定款に記載した価額と著しく異なるときは、発起人と設立時取締役が会社に対して連帯して不足額を支払う義務を負うことになります。(会社法第52条参照)
では、発起人が出資の履行を行わない場合はどう対応すれば良いでしょうか。この場合、まず、出資を行わない発起人に対し履行せよと通知し、通知で定めた期日までに履行しなければ株主となる地位を失うことになります。この通知は、期日の2週間以上前にする必要があります。(会社法第36条参照)自分で定款に記載した約束も守れないような発起人に対しては、裁判によらず法律上当然に縁を切れるように用意された条文です
次回は、株式会社の発起設立について詳しく考えてみたいと思います。