「株式の性質と株式の譲渡制限」
今回は、株式の基本的な性質と株式の譲渡制限についてお話を進めていきます。
まずは株式の定義とは何かを考えてみます。投資家は株式会社に出資をすると、株式会社から「株式」という地位を割当てられることによって株主となります。つまり、株式とは「株式会社の社員(出資者)としての証し」のことなのです。
さらに、株式は譲渡をしやすくするため、1株という単位に細分化されます。この細分化された株主1株ごとの地位は原則として平等に取り扱われることになります。これを「株主平等の原則」といいます。(会社法第109条参照)普通株式を同じ株式数有しているかぎり、有力株主だけ他の庶民株主に優先して配当を受けるなんてことは出来ないのです。
次に、この株式を譲渡する場合について考えてみます。株主は所有する株式を自由に譲渡することができるのが原則です。(会社法第127条参照)投資家は投下した資本の回収手段として、配当を受けることはもちろん一つの方法ですが、株式を安く買って高く売るという売却益目当ての投資家が多数派です。そのような売却益目的の投資家にとっては、株式を自由に譲渡できるということは大変重要です。
ところが、現実社会では株式を自由に譲渡してもらっては困る株式会社がほとんどなのです。例えば親戚同士甲・乙さんで普通株式を100株ずつ発行(合計200株)するA株式会社を設立した場合に、ある日お金に困った乙さんが100株を第三者丙に売り払ってしまったとしましょう。この新株主丙さんが口うるさい人だったら会社運営がとてもやっかいになります。事務所でのんびりランチしながら株主総会開催なんてわけにはいきません。なので、我が国の95%以上(もっと多いかも)の株式会社は定款に「株式の譲渡制限に関する規定」を置いて会社にとって望ましくない株主が乱入することをブロックしています。(会社法第107条参照)この規定を定款に置かず株式譲渡が自由な会社のことを「公開会社」(会社法第2条)といい、定款にこの規定を置いている会社を非公開会社または閉鎖会社(通称)などと呼んでいます。
つまり、売却益目的で株式投資をしている投資家は、株式譲渡が自由な「公開会社」(ほとんどがいわゆる上場企業などの大企業)のたった数パーセントの株式会社の株式を売買して儲けているということになります。
ここで一つ大きな疑問がわきます。株式会社は多くの投資家から資金調達するための手段ではなかったでしょうか?じつは、現実社会の株式会社は資金調達のためというよりも、株主有限責任というもう一つの株式会社の特徴を重視して設立されている会社がほとんどなのです。圧倒的多数の会社は所有者(株主)=経営者(役員)なわけですから、ヘタに出資をされて見知らぬ株主に入ってきてほしくないというのが本音なのです。この株式会社制度の建前と現実社会のギャップを埋めるために会社法では最低資本金の制度を廃止し、一人役員の会社も認めたともいえます。逆にいいますと、会社法は超一流企業から町工場まで広範囲をカバーしているため、複雑でわかりにくいのです。
次回は、株式会社の機関設計についてご紹介したいと思います。